極早生・多収の稲ホールクロップサイレージ用水稲品種「なつあおば」を開発
平成22年9月1日
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
中央農業総合研究センター
ポイント
・極早生多収の稲ホールクロップサイレージ用新品種「なつあおば」を開発しました。
・熟期の異なる飼料用稲品種と組み合わせることで、稲ホールクロップサイレージの収穫適期が拡大し、機械体系を変えずに栽培面積を増やすことができます。
・縞葉枯病に対し抵抗性があり、稲麦二毛作地帯における麦収穫後の栽培に適しています。
・本品種の普及により、水田の有効活用による飼料用稲の生産促進が期待されます。
概 要
1.農研機構 中央農業総合研究センター【所長 佐々木昭博】では、飼料用稲の作期分散を可能とする、飼料用稲の新品種として「なつあおば」を開発しました。
2.「なつあおば」は、普及見込み地帯の埼玉県において極早生の熟期の品種です。「なつあおば」を導入することにより、従来、9月下旬から始まる飼料用稲の刈り取りが9月上中旬から開始できるようになり、飼料用稲の作期幅が広がります。これにより、飼料用稲収穫機の稼働面積を拡大して、刈り取り作業の効率化を図ることができます。また、刈り遅れによるサイレージ品質の低下を防ぐとともに、後作小麦の播種作業の遅れを回避できること等が実証されました。
3.「なつあおば」の耐倒伏性は強く、多収で、湛水直播適性があるので、低コスト栽培が可能です。また、縞葉枯病に対して抵抗性があり、この病気が発生しやすい稲麦二毛作地帯における麦収穫後の栽培に適しています。
4.「なつあおば」の普及によって、水田の有効活用による飼料用稲の生産促進が図られ、食料自給率の向上と耕作放棄地の減少、かつ、生産農家の収益向上の一助になることが期待されます。
5.なお、本研究は農林水産省委託プロジェクト「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発」の成果です。また、本品種は8月25日に品種登録出願公表されました。
問い合わせ先
・研究推進責任者:農研機構 中央農業総合研究センター北陸農業研究監 新田恒雄
・研究担当者:低コスト稲育種研究北陸サブチーム長 三浦清之 TEL 025-526-3239
・広報担当者:北陸企画管理室連絡調整チーム長 山本徳義 TEL 025-526-3215 FAX 025-524-8578
背 景
食料自給率の向上および耕作放棄地の利活用のため、飼料用稲の作付が推進されています。飼料用稲のうち、稲ホールクロップサイレージは稲株全体を収穫、発酵させ飼料としたもので、黄熟期に収穫調製すると栄養価が最も高いとされています。高品質のサイレージ調製のためには、収穫可能期間が黄熟期に限定されますが、飼料用稲の作付面積の拡大に伴い、適期に収穫できない場合があり、サイレージの品質低下を招いています。とくに稲麦二毛作地帯では、収穫作業の遅れは後作の麦の播種の遅れを招く恐れがあり、飼料用稲の導入及び普及定着の妨げとなっています。また、稲麦二毛作地帯の麦跡栽培では、縞葉枯病の発生が問題になっています。
このような背景から、収穫期間の拡大が可能となる、極早生で、縞葉枯病抵抗性をもつ飼料用稲品種の開発が望まれていました。
経 緯
「なつあおば」は極早生の飼料用品種の育成を目的として、早生の飼料用品種「北陸187号(後の「夢あおば」)」と早生の多収品種「アキチカラ」の交配組合せから育成された品種です。平成11年に育成を開始し、平成18年から各県における飼料用としての適性評価試験を行ってきました。平成21年までの試験結果により、埼玉県において、稲ホールクロップサイレージの収穫期間の拡大を目的として普及されることとなり、このたび「なつあおば」として品種登録申請を行いました。
内容・意義
1.育成地では“極早生”の熟期に属する品種であり、出穂期は一般食用の主要品種である中生の「コシヒカリ」より2週間程、極早生の多収品種「アキヒカリ」より1日程早いです。また、収穫適期である黄熟期は「アキヒカリ」より5日程早く、「コシヒカリ」の収穫適期(成熟期)よりも1ヶ月近く早いです(表1)。
2.稈長は「アキヒカリ」より12cm程長く、穂長は「アキヒカリ」より長く、穂数は「アキヒカリ」より少なく、一穂当たりの穂重が重い草型をしています(表1、写真1)。
3.耐倒伏性は強く(写真2)、収量を示す黄熟期乾物重は、移植栽培、湛水直播栽培ともに「アキヒカリ」より重く、低コスト栽培が可能な湛水直播栽培に適します(表1、2)。
4.縞葉枯病に対しては抵抗性であり、本病の発生の恐れがある稲麦二毛作地帯における麦跡での栽培に適しています。
5.埼玉県農林総合研究センターの成績では、「なつあおば」は、従来導入されている品種のうち、最も収穫時期の早い中生の「夢あおば」より2週間も早く収穫できることがわかりました。この結果、9月下旬から始まる飼料用稲の刈り取りが9月上中旬から開始することができるようになり、飼料用稲の作期幅が広がりました(図)。

図.「なつあおば」の導入による作期分散

写真1.草姿の比較(左:なつあおば、中:アキヒカリ、右:べこごのみ)

写真2.「なつあおば」の圃場写真(左:アキヒカリ、中:なつあおば、右:べこごのみ)
今後の予定・期待
埼玉県では、北部の二毛作地帯において、熟期の異なる飼料用稲品種と組み合わせて「なつあおば」を導入し、作期分散による刈り遅れの回避を図る計画です。当初は40ヘクタール規模で導入される予定ですが、将来的には、全県に広がることが期待されています。
さらに、関東以西の稲麦二毛作地帯においても、「なつあおば」の普及によって、水田の有効活用による新規需要米の生産の促進が図られ、食料自給率の向上と耕作放棄地の減少に資するとともに、生産農家の収益の向上の一助になることが期待されます。
現地栽培試験担当者
埼玉県農林総合研究センター 水田農業研究所 米・麦担当 石井博和
〒360-0831 埼玉県熊谷市久保島1,372番地 電話 048-521-5041 FAX 048-522-1840
用語の解説
・サイレージ:貯蔵性と嗜好性の向上を目的に、飼料作物を細かく細断し、空気が入らないように密封し、乳酸菌の働きで発酵させたものです。
・黄熟期:籾の約半分が黄色に実った時期です。稲ホールクロップサイレージの栄養価が最も高い時期といわれています。食用米の収穫期より10~20日程度早い時期に相当します。
・縞葉枯病:ヒメトビウンカが媒介するウイルス病です。ヒメトビウンカは、越冬後に麦を含むイネ科植物で繁殖してから田植え後にイネに移動するため、稲麦二毛作地帯では本病に抵抗性をもつ水稲品種の栽培が望ましいとされています。
・湛水直播栽培:水田に水を張った状態で、稲の種子を直接水田に播く栽培方法です。
<本資料は、埼玉県政記者クラブ、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブおよび筑波研究学園都市記者会に配付しています。>
